1キロも歩かずに…
2021.08.04
利尻島を離れる朝。外は雨模様。
利尻岳は厚い雲の中だ。
「終わったんだな~」と昨日から不意にこぼれる言葉。もう何回言っただろう。
ぽっかりと心に穴が開いた状態が数日は続きそうだ。
稚内行きの一便のフェリーに合わせ、朝食をさっと済ませ、ホテルのシャトルバスへと乗り込んだ。席に座っているだけで、すさまじい速度で過ぎ去る景色に、違和感と恐怖心をおぼえる。
フェリーターミナルまで15分ほどで到着。歩けば3時間はかかる距離だ。こんな比較がこれから事ある毎にあるだろう。
8時30分出港。「ブォー」と警笛とともに岸を離れた。島民の方々に見送られながら、「ありがとうございました!また、来ます!さようなら~」と叫び手を振った。
甲板で雲に包まれたままの利尻山を、遠く霞むまで眺め続けた。
様々な感情が入り混じり、どう表現したらいいのか自分でもわからない。時間はかかったが、大きな事故もケガもなく達成することできたことへの実感はこれから少しずつ増していくのだろうか。
1時間40分の船旅を終え、稚内へ到着すると雨が降っていた。
稚内駅までは700mなのだが、タクシーを使った。13時01分発の特急電車の切符を購入し、駅構内で出発までの時間を過ごした。
定刻通りに出発。ガタンゴトンと原野を走り出した。富良野駅までは約6時間の列車の旅。300キロ以上をほぼ座っているだけで着いてしまうのだから、これまでの3年7ヶ月の旅からは考えられないことだ。
車窓から見る景色。天塩川、歩いた道のり、訪れた町があっという間に置き去りにされていく。時間を有効活用できる移動手段ではあるが、どことなく寂しさが付きまとった。
約4時間で旭川へと到着。乗り継ぎ1時間を挟み、1時間ほどで薄暗くなった富良野市へ帰ってきた。実家までは父の運転で乗り物酔いが残る中、19時30分に帰郷した。
利尻島のホテルを出発してから12時間が経過していたが、歩いた距離は1キロにも満たな
い。
ただただ、今は信じられない。
少しずつ3年7ヶ月前の生活リズムに切り替えていこう。