緊急ビバーク
2021.06.28
2時40分に起床。
出発予定は4時過ぎ。こんなに早く起きたのには理由がある。それは、昼から雷雨予報が出ていたからだ。
縦走3日目の計画は双子池キャンプ指定地から、三川台(さんせんだい)へと縦走、トムラウシ山に登頂したあと、ヒサゴ沼避難小屋のキャンプ指定地を目指す。しかし、予報を見る限り、計画通りには行かなそうだ。したがって、今日の目的地はトムラウシ山山頂直下の南沼キャンプ指定地に変更。予報に反して天候が安定していればそのまま登頂、当初の計画通りに進む、という心構えで4時20分に出発した。
朝日が目指すトムラウシ山を越えて、背中のオプタテシケ山を染めていく。ここまでは二日目の朝と変わりはない。
最初のピークに出ると眩しい光とともに、トムラウシ山のシルエットが浮かび上がった。
「うわぁ最高の朝だ!」と感動を押さえ込めない。とても数時間後に、雷雨となるようには思えない朝だ。
学生時代にオプタテシケ山からトムラウシ山方面を眺め、あまりの山深さと羆との遭遇の恐怖から、つなげなかった道のり。背丈ほどのハイマツがうっそうと広がり、その中を一本の登山道が続いていく。あれから15年。ようやく十勝連峰から大雪山系へと繋ぐことができそうだ。
気持ちよく歩き続けている所に突然緊張が走った。それは40センチ以上にもなる真っ黒で大きな羆の糞だった。比較的新しく、予想通りこのあたりには大きな羆がいることを裏付けていた。その先は少し緊張感を高めながら進んだ。
三川台が近づいてきて、トムラウシ山もだいぶ大きくなったツリガネ山を越えると、モクモクとトムラウシ山を包み込むように雲がどんどん集まり出した。時刻はまだ8時前。そのスピードから、予報よりも天候急変が早まっていることを予見した。
先ほどの羆以上の緊張感。羆はこちらからアピールすれば予防できる確率は高いが、雷雨はどうすることもできない。一番危険な状況にならないように、決断を早くし、少しでも落雷のリスクが低い場所に身を置くしかないのだ。
その時いた場所は、周りに自分の場所よりも高い山がない。開けた尾根の上、標高は上がるが、尾根を三川台へと登った。9時前に三川台直下に到着。ちょうど登山道脇にテント一つ分張れるスペースがあった。直ぐにTORQUEで最新の天気予報を確認した。するとやはり、昨日の予報よりも天候の崩れが2時間も早まっていた。
2時間もあれば南沼キャンプ指定地には到着できるが、トムラウシ山は黒く厚い雲に包まれている。とても近寄る気にはなれなかった。
出発から4時間半、まだ9時前ではあったが、いつ雷雨になってもおかしくない状況に対応できるように三川台直下にて緊張ビバークをする事を決断した。
明日以降の縦走スケジュールに影響はあるが、そんなことを気にしている場合ではない。
これまでに雷で危険な状況になった経験から、トラウマのようになっていた。そのため、トムラウシ山へと向かう気持ちには更々なれなかった。三川台直下はキャンプ指定地ではなかったが、緊急だったためビバークは仕方がない。
それからしばらくして、雷鳴が十勝連峰方面から聞こえ、なんと縦走してきたツリガネ山付近に落雷した。もし、手前でビバークしていたらと思うとゾッとした。
昼前後は一時的に晴れ間もあったが、15時過ぎから再び雷鳴が聞こえ、今度はビバーク地も激しい雷雨に見舞われた。テント内、祈るような思いで身を屈め、過ぎ去るのを待ち続けた。
1時間後、雷雨は小康状態になり、少しずつ天候も回復してくれた。
改めて予報を確認すると、今日これ以降は雷雨になることはなさそうだ。安堵したら緊張が弛み、どっと疲れが出た。しかし、夜は羆の襲来が気になり、熟睡はできなかった。
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