日高山脈の最奥へ
2021.04.24
4日目(縦走3日目)、昨晩は暖かい夜だった。そのおかげで強ばる身体も短い間ではあったが、緩めて寝ることができたように思う。
今日の一番の目的はカムイエクウチカウシ山への登頂。そして、無事に難所を抜けて、ビバーク予定地にたどり着くことだ。今日を乗りきれば、縦走前半部が終わることを意味する。「焦らず行こう」が今日の合言葉になるだろう。
昨日よりも出発時間を1時間早め、5時30分に出発。
昨日は遅く出過ぎたことを1日を通して感じていたからだ。朝晩の冷え込みにより、10時頃までは雪は固くしまっているが、その後は気温や直射日光の影響で弛む一方、雪崩や落雪、踏み抜きのリスクも高まる。さらに体力の消耗も違ってくる。
そのようなことから、今日から5時半前には出発することを決めた。
ナメワッカ分岐を過ぎると早速春別岳(しゅんべつだけ)への岩稜が始まった。足元をスノーシューからアイゼン(クランポン)に変えて、ふぅーと深く息を吐き、一歩目を踏んだ。主稜線を挟んで東西どちらにも落ちてはいけない状況が、カムイエクウチカウシ山の直前のピークまで続いた。
四肢全てに気を払い、時間を忘れて集中させる。一つまた一つ、大小のピークを越えては下り、また登り返す。
春別岳の先にある、1917峰まで来ると、一気に目指してきたカムイエクウチカウシ山が大きくなった。そして、ようやく「近づいた」という気持ちとなれた。
ジャンクションピークまでは休憩を挟みながら少しずつ前進。山頂までひと下り、ひと登りとなってからはどんどん進んだ。大きくなるカムイエクウチカウシ山はまさに「カッコいい山」だ。
日高山脈の最高峰は幌尻岳だが、主稜線ではこの山が一番高い。優しさを感じる幌尻岳が母なる山ならば、険しさを露にしたカムイエクウチカウシ山は日高山脈の長だろうか。
最後のひと登りを息を切らし登りきると、幌尻岳以上の達成感が湧いていた。ハイマツをかき分けながらたどり着いた、2015年以降二度目の山頂からは、山脈南部の山々、北部の山々が同じように南に北に延びていた。まさにここは日高山脈の中心部のようにも思えた。
山頂での時間は短く済ませ、ピラミッドピーク手前の最低鞍部まで下山。そこで、昼食をとり、この日の予定ビバーク地を目指した。
日高山脈は大きく南北に連なるが、数ヶ所で東西に短く屈曲しているところがある。カムイエクウチカウシ山から今日のビバーク地まで、2㎞ほどの区間も同様だ。その東西に屈曲しているところのほとんどが切り立った岩稜となり、かなり足場の悪い道のりとなる。
雪庇は南北に張り出し、慎重な判断が必要となる。最後まで気を抜くことは許されない区間だ。
この日は本当に最後の最後まで気を抜くことができなかった。無事ビバーク地に到着したとき、縦走前半部を乗り切れたことを噛み締めた。
落ち着く間もなく、せっせとイグルー作り。この日のイグルーが縦走中一番の出来栄えとなった。
快適なイグルーの中で、夕食をとりながら、流れてくるラジオに耳を傾けた。ラジオの天気予報からは「今晩から低気圧を伴う気圧の谷が通過するため、明日朝にかけて山間部では雪となるでしょう」との事だった。ネットの天気予報でも明日は縦走には適さない状況のようだ。
当初から山中での荒天よる停滞は計画にもあった。そのため、食料も14日分背負ってきたのだから。とにかく、どうするかは明日の朝考えよう。快適なイグルーでの3日目の夜がふけていった。
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