達成感たっぷり
2020.10.20
夜明け前、冷え込む部屋で、身支度を済ませた。
天気予報とニュースを見ながら朝食をいただき、6時45分に風不死岳(ふっぷしだけ)登山口へと出発。静かな支笏湖(しこつこ)畔を猛スピードで走り抜けるトラックに風情をかき乱されながらも、朝日を浴びる風不死岳が長い直線の先に見えた。
そもそも今回なぜ、樽前山(たるまえさん)を登るために、あえて風不死岳からの縦走ルートを選んだのかというと、それは「多角的に樽前山を見てみたかった」からだ。
山の大きさ、見え方の変化、植生の変化など様々な角度から、樽前山を登りながら感じたかった。
ほとんどの登山者は7合目まで車で来て、最短1時で最高峰の東山に登頂してしまう。前回はそのルートで登ったが、自分の体力からすると、とても楽な登山となり、活火山としての迫力や躍動感を感じることなく樽前山を後にしていた。
今も激しく噴煙を上げる活火山を登るのは久しぶり、これまでの山とは違う雰囲気だろう。
風不死岳山頂へと標高800メートルを一気に登る。昨日の疲れはどこへ?というようなペースで1時間程で登りきった。風不死岳からまるで異世界のような樽前山が視界に飛び込んできた。一瞬、時間が止まったようになり、深く息を飲んだ。
そして、「うわースゴい!スゴい景色だ!想像以上だ」とこぼれた。
朝日で輝く太平洋をバックに、無風の空と真っ黒い大地の真ん中の、今にも張り裂けそうな溶岩ドームから立ち上る噴煙。その光景を、西から流れてきた雲で太陽が遮られてしまうまで、休憩しながら眺めていた。ここから見た樽前山の姿がこの日一番だっただろう。
20分ほど休憩し、曇天の中を樽前山へと少しずつ近づいていく。落葉したダケカンバの森を抜けると、灌木がまばらになり、足元の土の色も変わっていく。
7合目へと下る分岐点を境に木々はほとんどなくなり、見渡す限りの荒れ果てた大地のようになった。黒々とした溶岩ドームを見上げながら、活火山へと本格的に足を踏み入れたことを実感する。
コンディションもよく、いつもよりもテンション高めに西山方面へと駆け抜けた。迫る溶岩ドームの迫力に、いつ噴火してもおかしくはないと緊張感は高かった。西山へと登り返す前で、溶岩ドームに鬼の角のようなものが見えた。見れば見るほど、姿が鬼が住む岩山のように見えてしまった。
西山は強い風が吹き抜け、体感温度はぐっと下がった。長居はせずに、樽前山神社奥宮へと走る。溶岩ドームの南側は4ヶ所から絶え間なく噴煙が上っていた。風下に回り込むと、久しぶりに硫化水素の鼻を突くにおい。参拝をした後は、冷たい強風から逃げるように、最高峰東山へと再び登り返した。さすがにスタミナが切れてしまい。最後の登りはヘロヘロになりながら、5年ぶりの樽前山東山登頂となった。
山頂からはタイミングが合わず、低い雲に空が覆われてしまったため、昼食を取りながら、青空が広がるのを待った。
山頂には置き手紙があり、そこには10日ほど前に樽前山で三百名山全山登頂を達成されたと書かれていた。なんと、達成までにかかった期間は52年!半世紀以上だ!スゴいことだと、ただただ驚いた。
待つこと1時間、ようやく雲が流れ、東山から納得の景色を眺めることができた。まさに大満足の1日となった。どこを切り取っても、素晴らしい1日に、達成感たっぷりで七合目の登山口へと下山し、支笏湖畔の宿泊先へと走った。
久しぶりに100点満点の登山だった。
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