5回目の鳥海山
2020.04.17
鳥海山山頂へといよいよ登らせてもらえる朝が来た。
夜明け前の部屋からは、昨日と同じような姿の鳥海山が見えて、喜びよりも安心感が先に湧いた。
日が登ってくるのを部屋のベランダから見て、シャワーを浴びて、キリリと気を引き締めた。朝食を部屋ですませて、6時半に出発。
放射冷却により、昨日はぐずぐずだった雪はカチカチに凍っていた。分かってはいたが、昨日の下見登山と時間を今日と同じにするべきだったと少し後悔した。
カリカリの雪のため、最初の急斜面のトラバースはシールの摩擦が弱く、何度か脱着を繰り返しながら、雪面の変化に合わせて、臨機応変に登った。
一本杉まで来ると一安心。まだまだ雪はカチカチのままだが、雪面に当たる太陽の光がキラキラと輝き、これまでの下見登山では見られない景色に出会った。5度目の登りだが、とても新鮮だった。
昨日よりも雪がカチカチのため、滑りやすいかと思うが、実際はその逆だ。雪面が少しでも緩むと滑りやすくなる。高くなる太陽を背に出発から2時間で滝の小屋に到着。そこから、休むことなく八丁坂を登った。
河原宿を進み、正面の外輪山へと続く急斜面へと入る。標高が上がると共に斜度は増し、標高1900メートルからはスキーアイゼンを装着。一歩一歩確実に雪面を捉えながら、じわじわと標高を上げた。標高2000メートルからは、ここまでで一番の斜度となるため、予定通りに左へとトラバースすることに。
しかし、下から見上げた時より実際にその場に来ると、見た目以上に急斜面のトラバースだ。さらに、雪面は依然としてカリカリのまま。一歩一歩慎重にスキーアイゼンを雪面にしっかりと効かせて進むが、安心感がない。そのため、じわじわと恐怖心が増していき、腰が引けてしまった。
おっかなびっくりの一歩がこんなにも頼りになく、不安に感じたのは久しぶりだった。
脳裏ではまたも、同じ時間帯にスキーアイゼンを着けての下見をしておくべきだったと考えていた。考えても状況は変わらない。今は50メートル先の安心地帯まで歩き切ることだけに集中した。
ヒヤヒヤドキドキの時間をとても長く感じながら、無事にトラバースを終えて、6年ぶりに外輪山に立った。外輪山の緩やかな傾斜に安堵しながら進んでいると、雪をまとっていても、大きな火口だと分かる外輪山の内側が見えて、その中には溶岩ドームの最高峰新山がドンと姿を現した。
6年前は雨でほとんど景色が見られなかったため、2度目だが初めてのことだらけだ。眼下には広大な庄内平野と大海原の日本海。風もなく、とても穏やかだ。
この2週間何度も登り、じっくりと鳥海山と向き合ってきたことで、山が歓迎してくれているように思えた。
途中でスキーを脱いで、アイゼンに履き替えて進んでいると、頭上に猛禽類の鳥が近くを通過した。突然のことで見たこともないのに、イヌワシだ!目があった!と一喜一憂したが、後ほど違うことが分かって、ぬか喜びとなった…。
外輪山最高峰の七高山(しちこうさん)に立ち寄ってから、外輪山の内へと一度下りて、新山への最後の雪面を登った。そして、出発から5時間半、山頂へとたどり着いた。
少し春霞が濃くなってしまっていたが、初めて見る山頂からの景色に興奮気味だった。
夏場でも、タフな山なのだが、まだまだ冬が残るこの時期の鳥海山は想像以上に手強い山だと分かった。山頂からみる日本海はすぐ下に見え、海の中から鳥海山は始まっているようにも見えた。
これから向かう東北北部の山々も見え、本州、東北最後の山となる岩木山も肉眼でとらえることができて、もう一度、興奮していた。
山頂で1時間以上ゆっくりと時を過ごし、下山まで楽しんだ。こんなにもいい状況下で、鳥海山に登らせてもらえたことを素直に感謝して、山頂を後にした。
下山は、スキーを再び履いて、滑り出した。登ってきたカリカリの斜面は、太陽の力で滑りやすいザクザクの雪となり、何時間もかかって登ってきた急斜面を下山は数十分で滑り降りてしまった。最後は昨日と同じように重たくなった雪に足をとられながらも、集中力を必死で維持して、無事に下山を終えることができた。疲労はこれまでで一番だったが充実感も一番だった。
新型コロナウイルス感染拡大が止まらない状況下で、全国的に様々な分野での自粛が進み、鳥海山を前に登ることを悩む日もあった。しかし、たくさんの人々からの応援や協力、理解により、山荘にて自主隔離をしながら、じっくりと鳥海山と向き合わせていただくことができ、今日の登頂を実現することができたのだと、強く強く感謝をしたい。
もう数日の自主隔離は続くが、22日以降のスケジュールは未定だ。
!登山ルートをYAMAPでチェック!