三者三様の笊ヶ岳
2019.08.02
明後日から始まる南アルプス南部主稜線縦走に向けて、越えなくてはいけない山が一つ。それは、深南部の大無間山に並んで、南アルプス南部の難山「笊ヶ岳(ざるがたけ)」だ。前回は山梨県側より標高差2000メートルを駆け登ったが、今回は椹島ロッジより往復コースで登る。
前回より標高差は少ないがそれでも1500メートルは超える。また、コースタイムは13時間30分程と、容易くはない。さらに、2000メートルを越えたところから、滑りやすく足場の悪いトラバースが続く。いくつもの沢と尾根を登り下り繰り返しながら、笊ヶ岳のある稜線へと近づいて行く。そこを往復コースのため、2度通らなくては行けない。大無間山の時のように、いい緊張感を通り越して、不安を抱かないようにしたいところだ。しかし、ちょうど1年前の今日、蓬莱山(ほうらいさん)にて骨折をした。意識しないようにしていたが、無理だった。いつも以上に慎重になりながらも、集中することに努めるしかない。
南アルプスも一年で一番賑わう8月に入ったのだから、笊ヶ岳へと向かう登山者もいるかと思っていたが、この日はなんと!自分を入れて3組だけだった。
さらに驚いたのが、皆三百名山全山踏破を目的に登って来ていた。
最初に出会った女性二人組のうち、80歳を超えるおばあちゃんが三百名山達成まであと4座だという。今日が297座目の笊ヶ岳。一緒に登るもう一人の方がペースを合わせながら、ゆっくりゆっくり登っていた。その姿に、自分も来るであろう297座目はどんな心境になるのだろうと想像していた。
あっという間に抜き去り、急斜面を登っていると、前方に男性が一人。昨日、椹島に向けて自転車をこいで登ってきた方だった。
挨拶をしてから、道を譲って頂くと、男性は僕に気付いたようだ。少しだけ話を伺うと早期退職し、北海道札幌市より今年の5月に自転車で出発し、三百名山を登りながら、今は屋久島を目指して南下していらっしゃるという。そして、日本一周も兼ねているため、屋久島からは北海道に向けて北上していくそうだ。久しぶりに素晴らしい挑戦をしている人に出会った。
これで、椹島からの登山者は以上だった。
ヘルメットを装着し、無事にトラバース区間を抜け、朝露に濡れながら、稜線へと出た。稜線には季節外れのシャクナゲが満開となり、白く小さなゴゼンタチバナソウが迎えてくれた。出発から約4時間で4年ぶりに登頂した。山頂から、明日から縦走する南アルプスの明峰がズラリと並んで見える予定だったが、すでに雲が湧いて、3000メートル級の山々は隠れてしまっていた。
自転車一周の男性は、かなりの健脚で、63歳とは思えないほどのスピードで、僕よりも早く、笊ヶ岳へと登頂し下山していかれた。
登山口から少し登ったところで、会ったもう一人の三百名山達成を目指しているおばあちゃんたちは、下山の時にすれ違ったが、コースタイム以上の時間がかかっていた。このまま登り続ければ、日没前に下山はとても無理な状況だった。「午後から雷雨予報が出ていますので、下山の体力が残っているうちに、早めの下山をした方がいいと思いますよ。」と伝えると「そうですよね~でも、行けるところまでいこうと思います。」
三百名山達成まであと4座が背中を押すのだろう。しかし、すれ違った時点で冷静に判断すれば、この登山者のデッドラインだったと思う。気掛かりではあったが、まずは自分の下山をしっかりとと集中して、トラバース区間を抜けて、椹島ロッジのレストランが終わる前に、無事に下山を終えることができた。
肉そばとソフトクリームが体に染み渡った。笊ヶ岳もやっぱり一筋縄とはいかない山だった。女性二人は結局、ロッジスタッフに17時下山と伝えていたそうだが、22時に下山してきたそうだ。
消灯前に気掛かりで、勝手に心配していたが、無事だったことはなによりだった。翌朝、椹島にパトカーが止まっていた。
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