登頂するために
2018.02.07
標高900メートルにある宿泊先の民宿焼畑を夜明け前に出る予定だったが…玄関を出ると山からの凍えるような風が吹き付け、雪が舞った。見えるはずの山は雪雲に覆われ、これからそこへ向かう自分の心が不安にかられた。
行けるのか…登れるのか…この雪はいつまで降り続くのか…予報通り天候は回復するのか…様々な思いが目まぐるしく動いた。
宿のご主人に自分の不安を聞いてもらいたく話すと、まぁコーヒーでも一杯飲んでいきなさいと優しく差し出してくれた。
飲みながら山を見上げ、国見岳まで行けるのかどうかは登ってみなければわからないし、ここで山を見続けても不安な気持ちは解消されないので、「今日は下見」と気持ちを切り替え、予定よりも1時間遅れで出発した。
宿から2キロ先の萱野(かやの)登山口を8時半過ぎに出発する。1,600メートルを超える五勇山(ごゆうざん)をまずは目指した。樹林帯の中を雪が降り積もった登山道を登る。
地元の方々からの情報通り、降り積もった雪は少なく軽い。序盤は支障なく登った。時間の経過と共に、頭上の雪雲は晴れていき、真っ白な主稜線が見えてきた。その白さが降り積もった雪の多さを想像させた。
1,300メートルを過ぎると、積雪量は一気に増えた。場所によっては、膝上まである。雪が新雪で軽いため、想像以上の負担は無かった。さらに登り進め、1,500メートルを超えると、太ももまでの積雪となり、簡単には進めなくなってきた。
しかし、気持ちは晴れやかだった。
なぜなら、いつの間にか冷たく強い風は止み、暖かな日差しを感じていたからだ。不思議なもので、人間は暖かな太陽の光を浴びるだけで、こうも心が休まるのかと実感しながら、木々の間から見える山並みを眺めほっとした。
五勇山が見えてきた時には雪の深さは腰まである場所も。しかしスタートの時のような不安は少なく、むしろ「もしかしたら今日、国見岳まで行けてしまうのでは…」という気持ちを制するようにさえなっていた。
12時ごろ、雪をかき分け五勇山に登頂した。
展望が少ない山だが、市房山や阿蘇山、祖母山など九州中央山地の山々が見えた。見下ろす椎葉村の集落は一つも見えず、改めて本当に谷深い場所だと実感した。五勇山でこの先のことを考えながら、腹ごしらえをした。
「途中で計画を変えるのは安直だ」と言い聞かせ、プラン通り、下見の1日とすることにして、国見岳には明日以降に目指すことに決めた。少しでも国見岳への登頂の確率を上げるために、五勇山に荷物を置いて、午後はルート工作の時間に当てた。
ルート工作といっても、簡単なこと。ただ降り積もった雪のなかを一人歩き、踏み跡をつけることだ。これをラッセルという。五勇山から2時間、国見岳との主稜線をラッセルして、ちょうど中間地点までで引き返した。
帰りは登りの3分の1の時間で下山した。
今日はまさに北海道を感じるような、雪山歩きだった。九州でこんなに雪が!
自然はすごい。
明日のために、大切な1日となった。